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看護師解説|熱中症対策の正解は?予防から緊急時の対応まで徹底ガイド

「水分は摂っていた」「帽子もかぶっていた」

救急外来に熱中症で運ばれてくる患者さんの多くは、そう口にします。なぜ対策をしていても倒れてしまうのでしょうか?

「ただ水を飲むだけ」「おでこを冷やすだけ」といった昔ながらの方法では、近年の危険な暑さには太刀打ちできません。間違った対策は、かえって命の危険を招くこともあります。

本記事では、看護師資格を持つ筆者が、最新のガイドラインに基づいた「医学的に正しい熱中症対策」を解説します。

水とスポーツドリンクの使い分けからおすすめの冷却グッズまで。「これで大丈夫かな?」という夏の不安を、確かな安心に変えていきましょう。

熱中症対策の水分補給は「水・麦茶」でOK?汗なら「スポドリ」一択

水分補給の正解は、「汗をかいているかどうか」で決まります。

デスクワークや家事などの日常生活では、水や麦茶で大丈夫。ただし、運動や屋外作業で汗が出る場面では、スポーツドリンクを選びましょう。

シーン飲み物理由
日常生活水・麦茶大量の汗をかいていない状態でスポドリを飲むと、糖分・塩分の摂りすぎるリスクがある。
運動・屋外作業スポーツドリンク汗で失われた水分と電解質(ナトリウム)を急速に補給する。水だけでは吸収が追いつかない。

厚生労働省の推奨によると、成人が1日に排出する水分量は約2.5Lです。食事などから摂れる分を除くと、「飲み水として最低1.2L」の摂取が必要とされています。

コップ1杯(200ml)を、起床時・食事中・入浴前後などで6〜8回に分けてこまめに飲むのが理想です。

大量に汗をかいた時は、水だけでなく、塩分0.1〜0.2%の水分を摂りましょう。わざわざスポーツドリンクを買わなくても、「水1リットル+食塩1〜2g」で代用できますよ。

熱中症対策の冷却グッズ|おでこより「首・脇・太もも」を冷やすのが鉄則

冷却グッズは「何を買うか」よりも「どこを冷やすか」が大事です。

太い血管が通る「首・ワキ・太もも」をダイレクトに冷やせる冷却グッズを選ぶようにしましょう。

おでこではなく「太い血管」を冷やす理由

人間の体には、皮膚のすぐ近くを太い血管が通っている「冷却ポイント」があります。

下記の3点が、効率的に体温を下げるポイントです。

  • 首の前側(頚動脈)
  • 脇の下(腋窩動脈)
  • 太ももの付け根(大腿動脈)

効果的に体温を下げるなら、保冷剤や冷たいペットボトルを太い血管が通る3点に当てて冷やしましょう。

おでこに冷却シートを貼っても「気持ちいい」だけで、体の内部の熱(深部体温)は下がらないのでご注意ください。

おすすめは「ネッククーラー」と「日傘・空調服®」

熱中症の対策には、太い血管を効果的に冷やせる「保冷剤」や、直接日差しを遮れる「日傘」などがおすすめです。

グッズポイント
ネッククーラー・保冷剤太い血管がある「首」を継続的に冷やせる。現場作業なら、保冷剤をベストの脇ポケットや背中に入れるタイプも効果的。
日傘直射日光を遮るだけで、体感温度は下がる。日傘の色は、熱を吸収しにくい白やシルバー系がおすすめ。
ファン付きウェア(空調服®)汗が蒸発する時に熱を奪う「気化熱」を利用する。

環境省のデータによると、日傘の使用で暑さ指数(WBGT)を1〜3低減できるといわれています。近年では、女性に限らず男性の日傘の利用も増えていますよ。

「熱中症かな?」と思ったら|看護師が教える応急処置フロー

熱中症を疑ったら、まずは「意識確認」を行います。自力で飲めなければ即119番、飲めるならその場で冷却です。

どんなに対策をしていても、体調や環境によっては熱中症になるリスクがあります。

「頭痛がする」「めまいがする」「足がつる」といった症状が出た場合、最初の30分の対応がその後の回復を左右します。焦らず正しく動くための、具体的な手順を見ていきましょう。

STEP1:意識の確認

まずは声をかけてください。

「返事がない」「反応がおかしい」→迷わず119番(救急車)を呼んでください。一刻を争います。

「はっきりと返事ができる」→STEP2へ進み、現場での応急処置を行います。

STEP2:現場での応急処置

「熱中症かもしれない」という人がいたら、「FIRE(ファイヤー)」の4ステップで対応してください。

FIRE(ファイヤー)とは、日本救急医学会などが推奨する医学的に正しい応急処置の頭文字をとったものです。

ステップポイント・注意点
Fluid(水分補給)スポーツドリンクや経口補水液(OS-1等)を摂取させる。
飲めない場合はすぐに「Emergency(救急搬送)」へ切り替える。
Icing(冷却)涼しい部屋へ移動させる。
衣服を緩め、「首・脇・太もも」を冷やす。
皮膚に水をかけてうちわで仰ぐのも効果的。
Rest(安静)楽な姿勢で休ませる。
仰向けに寝かせ、足をカバンや椅子に乗せて10〜30cmほど高くする(ショック体位)。
Emergency(119番・緊急対応)「呼びかけへの反応がおかしい」「自力で水分が摂れない」などの場合は、119番に通報する。

自力でペットボトルの蓋を開けられない・飲もうとしてもむせる場合は、無理に飲ませてはいけません。飲ませたものが気管に入り、肺炎窒息を起こす危険があります。

救急車が到着するまでの間も、「I(冷却)」のは絶対に止めないでください。

看護師が答える「熱中症対策」のよくある質問

子どもの熱中症対策で気をつけることは?

子どもの熱中症対策では、「地面からの熱」「体の未熟さ」の2点に注意してください。

子どもは大人よりも身長が低いため、熱されたアスファルトからの「輻射熱(照り返し)」を強く受けます。
大人が32℃と感じていても、子供の顔の高さでは39℃近く(+7℃)になっていることもあるのです。


また、子供は体温調節機能が未熟。「大人が暑い」と感じたら、子供は「かなり危険」と判断し、エアコンの効いた室内や、風通しの良い日陰に避難させてください。

予防に「塩飴(タブレット)」は食べたほうがいいですか?

汗をかいていないなら塩飴は不要です。

塩分タブレットは、あくまで「汗で失った塩分を補うもの」。
冷房の効いたオフィスにいるのに塩分ばかり摂ると、塩分過多で血圧が上がったり、逆に喉が渇いたりします。

「汗がダラダラ流れたら1粒舐める」くらいの感覚で使い分けましょう。

どのくらいの暑さなら、運動や作業を中止すべきですか?

「暑さ指数(WBGT)31以上」が中止の目安です。
厚生労働省や日本スポーツ協会のガイドラインでは、気温だけでなく湿度などを考慮した「WBGT」を基準にします。

  • WBGT31以上:運動は原則中止(危険)
  • WBGT28〜31:厳重警戒(激しい運動は中止)

建設業などの現場では、暑さ指数に基づいた休憩管理が事実上の義務となっています。
個人の庭仕事や部活動でも、数値が「31」を超えたら勇気を持って中止してください。

暑さ指数は専用の測定器がなくても、スマホの「天気予報アプリ」や「環境省熱中症予防情報サイト」で居住地域の数値をすぐに確認できます。

作業前に必ずスマホでチェックする習慣をつけましょう。

正しい知識が「命を守る」|今年の夏を安全に乗り切ろう

熱中症対策の正解は、「効率的な水分摂取」と「正しい冷却」を徹底することです。

日常の水分は水や麦茶で十分ですが、汗をかいたら迷わずスポーツドリンクや、塩分を含んだ水分を補給してください。

冷却グッズはおでこよりも首や脇など「太い血管」に当てると、効率よく体温を下げられます。

熱中症を疑う症状が出たときは、「意識確認」が最優先。「自力で飲めなければ即119番」という判断が、あなたや家族の命を救います。

正しい知識をお守りにして、夏を安全かつ快適に乗り切りましょう。

【参考文献】

熱中症環境保健マニュアル|環境省
https://www.wbgt.env.go.jp/pdf/manual/heatillness_manual_full.pdf

日傘の活用推進について~夏の熱ストレスに気をつけて!~|環境省
https://www.env.go.jp/press/106813.html

治療よりも予防が大切!!熱中症の病態と救急医療|日本救急医学会https://www.wbgt.env.go.jp/pdf/library/library_10.pdf

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